「竜宮サマっているじゃん?あの眼鏡かけててよく東芝のCMで踊ってる子」
「知らない」
「その子、留年したらしい」
「ちょっとどうでもいいかもなその話」
「だよな」
「え、取り乱してるのはこっちだよね」
「うんそうだよ」
「じゃあ一回手前からいこうか」
「どこからが奥なんだ」
「俺って天才なんじゃないか?」
「どちらかというとハゲだね」
「それはどういった意味で……?」
こういった会話を続けていると、世界に潜む混沌や邪悪が意外とどうでもよく感じるもので。日常はこんなものでよいのだと、少し嬉しくなる自分がいる。もちろん、応答している最中にそんなことを考えられるほどの心の器は持ち合わせていないから、いつもキレることと感謝を繰り返して生活しているわけである。
一度目を見開けば黄色い蝶々の舞う姿に心を奪われ、獣のように目で追ってしまうのは私の子どもとしての習性なのだろうか。本能と理性の間の境界は私の中にある大地を縦に割り、すみやかに発生した渦巻に肉体ごと飲み込まれるのを感じる。その穴の中は夢心地であり、きっとこのまま死んでいくのがいいんだと直感し、私を呼びかける現実の声が反射的に聞こえてくる。とりあえずそこからは浮き上がってみる。
「でさ、あそこで法理家としての回答はって言われたら、いや情報が足りないので、被害者の方と連絡させて頂きたい、って思うわけで、これが俺としては正しいと考えるわけよ。だからそう言ったら、ぽかん、とした顔でさ。いや確かにさ、全ての限りある情報を前提として議論を立てろってことなのは理解してるけど、それじゃあ法理家ってなんなのよって話じゃん」
「そうだね」
一旦バックステップして話をやりすごす。
「結局ゼミの教授にも苦い顔されるしさあ。いや、分かってるのよ、俺が正しくないってことは、でもさ」
彼は回心大学のゼミの同期で、名をファーディという。姓は知る由もない。私の数少ない貴重な友人の一人である。二限が終わるといつもこうして折り重なる街の裏路地にあるカフェに集合し互いの尻尾を振りまいている。彼はティーカップをよく好み、今もくるくると持ちて部分を人差し指で旋回させながらなにやら喋っている。私は彼のフックをかわしたり、仕返したり、度々ボディアッパーを食らわせたりしながら感情を得ている。
「ジョージア、肉塊になってしまったらもうおしまいだよ。城にはパフェは生えてないしね」
おっと、話が成立しなくなってきた。濃度を間違えたらしいから、一度深呼吸する。

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